■TAKAのボルドー便り■

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11.香りを測る

今回は、あるシャトーからソーヴィニオン・ブランの香りの分析の依頼がきています。
「香りを測る」とはどういうことなのか、どんな手順でこれを行うのかをみなさんと一緒にみていきましょう。

ではいよいよ測定開始です。

まずは500ミリ・リットルのソーヴィニオン・ブランワインからすべての香りの成分をとりだします。それには有機溶媒とよばれる物を使って「抽出」という操作をします。有機溶媒とワインとは互いに混ざり合いません。しかしこれをドレッシングのように強引にかき混ぜます。
これを静置すると少しずつワインの水分と有機溶媒が別れてきます。振ったドレッシングが油と酢にわかれることと同じです。たまたま横でロゼワインの分析もしていたのでワインと有機溶媒がわかれてる様子をロゼワインを例にして示してみました。
下に沈んでいるのが有機溶媒です。
ここからソーヴィニオン・ブランに特異的な香りのみを取り出すのです。それは前にご紹介したチオールと呼ばれている仲間達の事です。それには劇薬指定になっているある特別な試薬を使うのですが、この試薬がチオールと特異的に反応します。この試薬のラヴェルには注意を促すためのドクロ・マークが付いています。
この試薬を先ほどの有機溶媒と振り混ぜます。その間にこの試薬はチオールと反応しています。これはやはり有機溶媒と混ざらないので静置すると2層にわかれます。
下側の黄色の液体の中にソーヴィニオンの香りのすべてが含まれています。しかしこの中にはまだ不純物が含まれているので、これをガラス管につめたイオン交換樹脂と呼ばれるものに通して精製します。
ガラス管の上に置かれている白い粉のようなものがイオン交換樹脂です。かにの子やイクラの粒のようなもの、と思ってください。ここに先ほどの黄色い液体を流し込みます。
すると不純物だけが樹脂に結合します。
そしてガラス管から流れてきた液体はごらんのように無色透明ですが、これがソーヴィニオンの香りの一滴なのです。
これを再び有機溶媒で抽出して最終的に25マイクロ・リットルの量までに濃縮します。これは1ミリ・リットルの40分の一に相当します。
ここにはソーヴィニオン・ブランワイン500ミリ・リットルに相当する香りが詰まっているわけです。
ここからわずか2マイクロ・リットルの量を特別な注射器でガス・クロマトグラフィーと呼ばれている分析機械に注入します。
スタート・ボタンを押せばあとは結果を待つばかりです。
コンピューターと連動していますので、こちらが組んだプログラムどおりに目的の物質を検出してくれます。

さて結果をお話しましょう。

写真中央に見える白とピンクのラインが重なっているピークがソーヴィニオン・ブランを語る上で、なくてはならないカシスの芽の香りを持つメルカプト・パンタノンというチオールを現しています。
このシャトー・ワイン1リットル当たりのこのチオールの量は約15ナノ・グラムでした。ナノ・グラムとは1グラムの10億分の1グラムのことです。この15ナノ・グラムという量は一つのソーヴィニオン・ワインと考えたときにはなかなか良い数字を示しています。
なぜならこの物質は0.8ナノ・グラムの量でその存在がわかるのです。
しかしここで別の機会に測定したフロリデンヌのポルタイユという区画から得られたワインの分析パターンをご覧にいれましょう。断突の違いです。
しかも違いはこのメルカプト・パンタノンだけではありません。パッション・フルーツやグレープ・フルーツの香りを持つチオール達の量も断突なのです。

このことからもフロリデンヌという畑が如何に類希なソーヴィニオン・ブランを産するのかが、おわかり頂けると思います。ヴィンテージ2000の仕上りが楽しみです。
如何ですか、香りを測るということは・・・・・・・・・。
勿論ワインの品質は機械が決定することではありませんが、科学はワインの発展・発達に寄与しているのです。中立的な判断を求められる醸造技術の分岐点ではAさん、Bさんのテースティング・コメントよりも分析値を重視します。それに至るにはメルカプト・パンタノンという例えばソーヴィニオン・ブランワインの品質を如実に物語る物質の発見が前提であることは言うまでもありません。それぞれの品種に対応した未知の香りの物質がまだ知られずに眠っています。
それらと是非とも出逢ってみたいものです。

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