■TAKAのボルドー便り■

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56.きいろの香り

春が運んで来た、きいろの香りがする葡萄酒!

ソーヴィニヨン・ブラン果汁中に眠っている香りの素、フレーヴァー・プレカーサーの構造解明が難航していた頃、一羽の鳥に出逢いました。それはとても綺麗な黄色い産毛に包まれた雛鳥だったので、私はその鳥に「きいろ」という名前を付けてやり、一緒に生活を始めました。
ところが暫くすると、その黄色い羽根が抜け始め、それから僅か数日で黄色かった「きいろ」は青い鳥になってしまいました。
毎日元気に家中を飛び回って遊んでいました。不思議なことに、きいろは時々ソーヴィニヨン・ブラン ワインのような香りを放っていました。私はこれを神様からの巡り合わせだと思いました。

しかし、翌年の春も待たずに、「きいろ」が遠い国に行ってしまった時、神様はいない、と悟りました。悲しみの中で思っていた事は、これからも心はこの小鳥といつも一緒にいたい、記憶の中から消えていって欲しくない、ということでした。

長い年月ののち、『きいろの香り』という本を書きました。いや、一羽の小鳥、きいろが私に書かせた本です。その本にはソーヴィニヨン・ブランのワインの香りの事も書き添えました。

でも、それで終わりではありませんでした。なぜなら、『きいろの香り』がヒントとなって日本古来のブドウ品種である甲州から得られるワインが新しい香りの扉を叩く可能性が浮上したからです。「そうか、きいろは日本へ飛んで行ったのか」と思いました。

そして昨年の秋、多くの人達の協力によってその可能性は現実のものとなりました。いま、その甲州ワインが皆様の手許に届きます。そのワインは〈きいろ香〉と名付けられました。
きいろが亡くなって今年でちょうど10年になります。しかも3月がきいろの祥月です。なにかの巡り合わせでしょう。きいろは私に本を書かせただけではなく、ワインも造らせました。そして、今、私の処へ戻って来てくれました。

私にとって格別な想いが込められているワインです。きいろがメーテルリンクの青い鳥と同じ仲間であることをきいろの没後に知りました。きいろは当時、私とカミさんにだけ幸せを運んできた青い鳥でした。けれども今、きいろは日本のワインを愛するすべての人に幸せをもたらそうとしています。

非常に繊細なワインですが、華奢ではありません。けれど折角ですから、少し休ませて瓶詰めのショックがとれてからお飲み下さい。カラフに移すと間もなく開き始めます。

心の中に青い鳥の飛翔が訪れますように…
2005年3月
Taka.
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