■TAKAのボルドー便り■

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38.敦雄君のその後

シャトー・マルゴーで実習し、パヴィヨン・ブラン甘口計画を実行した、昨年このHP登場の平川氏を覚えていらっしゃいますでしょうか。

彼はモンペリエにあるフランス国立農学学院 (ENSA)でのDNO(フランス国家醸造士)取得の為のすべての試験にパスし、マルゴーでの実習結果の発表会を待つのみになりました。

今回、技術士(農学エンジニア)の免状も合わせて取得すべく、必須項目である3ヶ月の研究実習をデュブルデユー研究室で展開することになりました。
彼の選んだテーマは「地中海性気候に育まれた植生とその土地のワインに固有の芳香成分を求めて」というものです。テーマからみればボルドーとは無縁なのですが、平川氏のTakaのもとで学びたいという強い意志、そして今ボルドー醸造学部のデュブルデュー研究室は香りの探索ではフランスでトップのレベルにあるので、平川氏を指導しているモンペリエの先生も快くこの研究をボルドーで行うことを承諾してくれた経緯があります。

ところで彼の名前は「敦雄」です。フランスでは研究室内ではみんな友人のようなものですから、名前で呼びあっています。私も最初は彼に敬意を表して「平川さん」だったのですが、それが「平川君」にかわり、いまは「アツー!」と呼んでいたりして……。

彼の選んだテーマは、ハッキリ言って難しい。これは本来なら博士論文にも匹敵するようなレベルです。指導を依頼された私も悩みましたが、一つだけ希望が差し込んでいました。それはサンプルとして分析するワインがあの「マス・ドゥ・ドマス・ガサック」だからです。あれ程の個性があるワインであれば何かしら得るものがあると考えたのです。
では彼にそのドメーヌについて説明していただきましょう。

マス・ドゥ・ドマス・ガサックとの出会い
私が南フランスを代表する赤ワイン「マス・ドゥ・ドマス・ガサック」に出会ったのは、今から7年前、卓越したブルゴーニュワインを生むことで知られるドメーヌ・デュジャックの収穫期の昼食時に出された、一本のブラインドワインが初めてでした。今でもその濃密で奥深い香りに驚きを感じたことをよく覚えています。そしてその時の感覚はいつか南フランス独自の魅力ある風土、豊かな地域農産物、年をおうごとに伝統と改革が交差するラングドックワインの可能性を学びたいという夢へと広がり、アルザス、ポムロール、勝沼を経て1999年秋期に、アニアンヌ村、ガッサク谷間に広がる約40 haのブドウ園にて私自身5回の収穫期を体験しました。

マス・ドゥ・ドマス・ガサックについて
マス・ドゥ・ドマス・ガサックは南仏モンペリエ市から南西に35 km、ガッサク川渓谷に挟まれた標高90mから220 mの地中海性気候の潅木林が茂る美しい自然環境の中に存在します。
今から約35年ほど前、ギベール夫妻が静かな生活を求めて買いとった家「マス・ドゥ・ドマス」から見下ろす潅木林の一部を開墾したところ、農作物栽培には適していませんでした。その為カベルネソーヴィニョンを植え、ボルドーの偉大なエノローグ、エミール・ペイノー氏の助言を経て醸造したところ、生まれたワインは驚くほど芳醇で、当時この地方唯一のグランヴァンとして世界的に高く評価されるに至ります。

この最初の区画「ペラフィヨック」はガッサク川が形成した北西向きの斜面にあり、石灰質基盤が氷河期に急激な温度変化により破砕し粘土質へとなって斜面全体を覆う赤土(ブルゴーニュの銘醸ワイン産地と同じ土壌生成)で、非常に土壌排水性に優れ、果皮成分に富んだ凝縮したブドウを生みます。
またガッサク川上流からブドウ園にもたらされる北風は冷涼で、ブドウの成熟期の夜間と日中の寒暖さはラングドック地方で最も大きく、この冷涼さがブドウに長い成熟期間を与え、ポリフェノール類(アントシアン、タンニン等)や芳香成分のブドウ樹の生合成に大きく関与しています。

現在ドメーヌは80haあり、そのうちの半分は潅木林で、ブドウ園はその中にひっそり小さく点在し、約40種類のブドウ品種が植えられています。AOC規格の外に自由を選択した為、誕生からアペラシオンを持たず、現在もヴァンドゥペイ(地ワイン)のまま、フランスで最も奇抜で個性的なワインの一つです。


ここではファーストワイン、セカンドワインの区別はなく、ドマス・ガッサクのブドウ園で育ったブドウは全て赤、白ワインごとにアッサンブラージュされます。
2001年からはペラフィヨックの最も上手 (より冷涼な微気象と土壌排水性の影響を受ける北北西の低収穫量の区画)を隔離し、カベルネソーヴィニョン100 %の「キュヴェ エミール・ペイノー」が誕生しました。
ドマス・ガッサク赤はカベルネソーヴィニョン80 %にシラー、ピノノワール、メルロー、グルナッシュ他をブレンド、ドマス・ガッサク白はプチマンセン、シャルドネ、ヴィオニエを主体にブレンドしています。
標高200 mの区画はブルゴーニュの気候に似ており、リュテチエンヌ石灰質の畑では、ピノノワール、シャルドネが品性を与えます。

ありがとうございました。平川さんのこのドメーヌに対する思い入れ、信頼感は並々ならぬものがあります。

さて、ワインからの香りの成分の抽出ですが、今回この実験のために1986年から2001年までのヴィンテージを合計24本供与して頂きました。私からもドメーヌのギベール氏にここにお礼を申し上げます。

いろいろな方法を駆使して香りの成分を取り出します。その甲斐あって精製最終段階で得られた抽出液はかなり個性的な香りを持っています。この香りがボルドーのワインで同様に操作して見当たらなければ嬉しいのですが、これはまだ結果がでていません。

 
 

彼は先週マス・ドゥ・ドマス・ガサックへ3日程戻りました。ギベールさんの顔を見ないと落ち着かないといいます。きっとTakaのシゴキに耐えられなくなり一時里帰りをしたかったのでしょう。

ところが向こうではギベールさんにも「アツオ、お前はまだ何も見つけていない!」といわれて落ち込んだ。しかし先方でブルゴーニュのテロワールでは第一人者と言われる方とのディスカッションのなかで閃いて喜び勇んでボルドーへの帰途についたはいいが、それをTakaに一蹴りで否定された。あぁ、研究生活は厳しい!

『研究とはいつも誠実に自信を持って、しかしその自信に時として脅えて振り返り、また進む、確実に、大胆に、そして同時に微細に……。それは悪魔の微笑みと天使の誘惑の世界……』。Taka。

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